東京・西麻布にあるワインバー/レストラン・ゴブリンで、
「アスカ・レコール・デュ・ヴァン」を主宰する
杉山明日香先生によるトークショウ「サロン・ド・アスカ」が開かれました。
講師業だけでなく、ワイン輸入業も手がけ、
さらにはパリでレストラン「ENYAA Saké & Champagne」をプロデュースしている
明日香先生は、2週間ごとにフランスと日本を行き来しています。
ヨーロッパ各国の銘醸地を訪れることも多いそうです。
この会は、明日香先生が本場で得た貴重なワイン情報を聞きながら、
ゆかりのワインを楽しむ1時間のささやかな集まりです。
今回は、視察してきたばかりのフランス・アルザス地方のお話でした。
これから前・後篇に分けて、会の模様を少しだけお伝えいたします。
なお、9、10、11月にも別の産地についてお話しする予定です。
ご興味を持たれた方は、ぜひご参加ください(第2回概要はこちら)。
こんにちは、杉山明日香です。
「サロン・ド・アスカ」にお越し下さり、
まことにありがとうございます。
この会では主に、私が最近訪れたワイン産地について、
みなさんにお伝えしていこうと思います。
これまでは出張に行っても、
自分のお店のスタッフや、友人にお土産話しをするだけでした。
それではもったいない、
これほどの頻度でワイン産地を訪れている日本人もいないはず、
と周りの方々が後押ししてくださったこともあり、
広くお話ししてみようと思い立ちました。
ほんとは、「明日香の夕べ」ってタイトルにしたかったんですけどね、
ダサいって止められちゃいました(笑)。
「アルザス人」という誇り
さて、第1回の今回は、8月の頭に行ってきた
アルザス地方についてお話しします。
ワイン好きならシャンパーニュやブルゴーニュ、
ボルドーには旅行されたという方もたくさんいらっしゃると思いますが……
アルザスはどうでしょう?
行かれたことのある方いますか?
(5人ほど手が挙がる)
すごい! 皆さまかなりのワイン好きですね。
まずどんなところにあるかというと……
フランスのワイン産地は10に分かれていまして、
アルザス地方は、北東部にあって、ドイツとの国境近くに広がっています。
この地はドイツ領になったりフランス領になったりした歴史があるのですが、
住人たちは誇りをもって「アルザシアン(アルザス人)」と自称しています。
自分たちのことを、フランス人ともドイツ人とも思っていないんです。
作り手さんたちは、私たちとは英語やフランス語で話しても、
家族間ではアルザス語を使ったりしています。
ドイツ語に似ているけれどちょっと違う言葉です。
ただ、こういう説明は現地では絶対にNG。
怒られてしまいます(笑)。
私もはじめはわからなかったんですが、
ドイツとくらべられるのがどうも嫌みたいです。
と言いつつ、ドイツと並べてしまいますが、共通点も多く、
ワイン生産についても似ているところがあるんですよね。
生産の割合はともに94%が白ワイン、1%が赤ワイン、5%がロゼです。
リースリングやピノ・ノワールなど、同じ品種のブドウもけっこう育てています。
アルザスとバーデンのワインの差
いきなり脱線しますが、今回は8月の中旬に、
ドイツのバーデンにも行ってきたんです。
アルザスから車でほんの1、2時間くらいのところです。
アルザスでも栽培しているリースリングのワインを試したんですが、
アルザスの方が日照量が多いのか、ブドウの果実味の凝縮感が強く、
バーデンのはクリアで優しいニュアンスを感じました。
とても近いのに味に違いが出るんですね。
ドイツ-アルザス間で生産者同士の交流もあるようです。
私は「ドイツに来たなら!」と思っていたことがあったんです。
絶対にザワークラウトとソーセージを食べてビールを飲むんだって。
でも、どのレストランでもメニューになくて……。
聞いたら、ドイツ人は1年に1回食べるか食べないかだよって、
お店の人に笑われちゃいました。
そんなわけはないと思うんですが……。
実は、アルザスもビールが有名で、独特の地ビールもあるんです。
かわいくてポップなラベルが多くて、
今人気なのはこの写真にある女性のお尻がモチーフのビールです。
クレマン・ダルザスで乾杯!
さあ、本格的なお話に入る前に、
1杯目のワインをお配りしますね。
アルザスのSipp Mack(シップ・マック)という造り手による
発泡性のワイン「クレマン・ダルザス」です。
今回はロゼにしました。
乾杯いたしましょう!
(かんぱーい!)
「クレマン」という名前のワインは、
シャンパーニュと同じ「瓶内二次醗酵」という製法で造られています。
ワインを瓶詰めして栓をした後に、さらに醗酵、つまり二次醗酵させることで、
二酸化炭素を発生させ、それをワインに溶け込ませる造り方です。
フランス人の一番消費量の多いスパークリングワインは、
このクレマン・ダルザスなんですよ。
価格はシャンパーニュの半分くらいなのに、
造りはしっかりしておいしいですよね。
このロゼは、ピノ・ノワール100%で造られています。
ベリーのチャーミングな香りがしませんか?
私は自宅だとよく、豚しゃぶに合わせたりするんです。
ポン酢ともゴマだれとも相性抜群です。
ロゼって、日本の家庭料理にとても合わせやすいんですよ。
アルザスの街並み
さて今回、私はまず、アルザスの中でも中心都市のストラスブールを訪れました。
パリからTGVというフランスの新幹線ならノンストップで2時間です。
ちなみに、シャンパーニュまでなら45分少々、
ボルドーまでも2時間ほどです。
フランス、特にパリ中心部の建物は白い石を基調としたものが多いんですが、
下の写真を見てわかる通りアルザスは茶色っぽい石が特徴的です。
木組の建物も多くて、
昔は雪も多かったので屋根から滑り落ちやすいように造られていますね。
カラフルな家も多いです。
ストラスブール一番の観光名所と言えば大聖堂。
下から見上げるとすごい迫力ですよ。
前の広場は、観光客で賑わってますね。
コウノトリが有名でモチーフにしたお土産が色々と売られています。
ストラスブールの街を移動するなら、
トラムと呼ばれる路面電車が便利です。
アルザスの郷土料理
アルザスの食文化を紹介しましょう。
下の写真が、わたしがストラスブールで一番好きなレストランです。
赤白のチェックのテーブルクロスが印象的ですが、
実はアルザスはどこもこのテーブルセッティングなんです。
内装も似たような感じなんですが、本当にかわいいですよね。
木の椅子にハートマークが見えますか?
このモチーフも多いんです。
ここの「シュークルート」がとにかくおいしい!
ドイツでいうザワークラウト、醗酵キャベツですね。
アルザスでは、塩漬けした豚肉、ソーセージ、
そしてジャガイモと煮込んで出してくれます。
この黄色が強いお芋が、ホクホクもっちりしていて、
「インカのめざめ」って品種がありますけど、
あれよりもっと濃いような味わいです。
これにリースリング! 最高です。
のちほどリースリングのワインをお出ししますね。
残念ながらシュークルートはないんですが、
とっておきのワインを用意しています。
ちなみにパンはバゲットじゃなくて、アルザス独特のパン。
この写真のように、ドイツパンに近い感じですね。
これもおいしくて、ごはん党の私もついつい進んでしまいます。
それから、「ベッコフ」も
アルザスの郷土料理で外せません。
私はこれを「洋風肉じゃが」と呼んでいます。
ジャガイモの薄切りと人参、セロリなどの野菜や
ウサギ、鳥などの様々な肉を
鍋に何層にも重ねて入れて、オーブンで焼いた料理です。
アルザスにはパン屋さんが多いんですけど、
もともとこのベッコフは、ミサに行く前に、
パンを焼き終わったオーブンに鍋を入れさせてもらって
作っていたらしいです。
鍋ががっしりしていますよね。
ストウブとかに似ていると思った方もいるかもしれません。
実は黒い厚手の鍋「ストウブ」は、アルザス発祥なんですよ。
写真はあとで話に出てくる、
「コルマール」というアルザス地方の街にある
レストランで食べたベッコフです。
私が今まで食べた中で3本の指に入るほどおいしかったです!
さて、ワインの話しに戻りますが……
つづきは後篇へ