10月下旬。
前回と同じように夕暮れ時に、
杉山明日香先生によるトークショウ
「サロン・ド・アスカ」が開かれました。
場所も同じ東京・西麻布にあるワインバー/レストラン・ゴブリンです。
「アスカ・レコール・デュ・ヴァン」を主宰し、
ソムリエ講座をするだけでなく、
ワイン輸入業も手がけ、ゴブリンとともに、
パリでレストラン「ENYAA Saké & Champagne」もプロデュースしている
明日香先生は、2週間ごとにフランスと日本を行き来しています。
ヨーロッパ各国の銘醸地を訪れることも多いそうです。
この会は、明日香先生が本場で得た貴重なワイン情報を聞きながら、
ゆかりのワインを楽しむ1時間のささやかな集まりです。
今回も視察してきたばかりのフランスのワイン産地についてのお話でした。
場所は、フランスの二大銘醸地・ブルゴーニュ地方とボルドー地方です。
以下に、会の模様を少しだけお伝えいたします。
秋のシャブリ
みなさん、こんにちは杉山明日香です。
今日は、お越しくださいましてありがとうございます。
つい先ごろ、
ブルゴーニュ地方とボルドー地方から戻ってまいりました。
今回のサロン・ド・アスカでは、
その二大銘醸地のお話を、もちろんワインのお土産とともに、
させていただきます。
さてまずは、ブルゴーニュのお話からはじめましょう。
今回は、同名の白ワインでもよく知られる、
「シャブリ」という街から入りました。
畑の写真をご覧ください。
場所は違いますが、前回の畑とは様変わりして、
葉っぱが茶色くなってきています。
いまから2週間くらい前、10月の頭ですが、すっかり秋です。
シャブリに行かれたことある方いらっしゃいますか?
小道がいっぱいあって、
川沿いにいろいろなレストランやカフェ、ショップが続く、
かわいらしい街並みなんですよね。
そんなシャブリになかなか予約がとれないレストラン
「オ・フィル・デュ・ ザンク」があります。
このレストランのシェフは日本人なんです。
ブルゴーニュの郷土料理に彼なりの工夫が少しくわえてあって、
とっても楽しかったです。
ワインの生産者のなかには、ブドウの他に
野菜を育てている方も多いんですが、
そんな方から分けてもらった無農薬野菜や、
同じように養蜂場を兼業されている方からの巣蜜で、
料理をつくっていました。
窓から見えるシャブリの風景もいいんですよねぇ。
Domaine Bzikot
シャブリに泊まっても絶対楽しいんですが……
ランチを終えたらすぐに商談で、南へ向かいました。
いまみなさんにお配りしているのは
「ピュリニー・モンラッシェ」という銘柄(村名)の 白ワインです。
造り手はブジコット。
このドメーヌ(ワイナリー)を訪ねてきました。
まずは、乾杯しましょう。
かんぱーい!
ブジコットは、
元ラガーマンのご主人と奥さんを中心に、
完全家族経営の、生産本数も少ない、
小さなドメーヌです。
ピュリニー・モンラッシェ村はブルゴーニュ地方の
コート・ド・ボーヌ地区の中央よりやや南くらいにありますが、
ブジコットは村のど真ん中に位置しています。
原料のブドウはシャルドネという種類です。
このブドウらしい、爽やかな柑橘の香りが感じられると思います。
そのあとにほのかな樽の香りがしませんか?
焦げたような感じがかすかに。
ブジコットは樽の利かせ方がとても控えめなんです。
キリッとフレッシュな味わいですよね。
おすすめのワインショップ
ここから、さらに南へ、
シャサーニュ・モンラッシェ村へ至る途中で、
2軒、おすすめのワインショップがあります。
さっき「ピュリニー・モンラッシェ」
という白ワインを飲んでいただきましたが、
これは村の名前がそのままワイン名になっています。
ブジコットのほど近くにあるのが、
「カーヴォー・ド・ピュリニー・モンラッシェ」
というワインショップです。カヴォーとは、小さいカーヴという意味。
実はブルゴーニュでも最近では、
古くからあるワインショップがよく閉店しています。
ワインを求める人々が世界中から来るのに、
なかなか専門的な店がないということで、
ここは、ピュリニー出身の若い二人ががんばって切り盛りしていました。
ワインバーのようになっていて飲むこともできます。
ブルゴーニュ全土のワインはもちろん、
シャンパーニュも置いてありました。
最近ムルソー村にも、もう一店舗オープンさせたそうです!
もうひとつが、
「カーヴ・ド・シャサーニュ」。
わたしがよく行く、大好きなお店です。
フランスには珍しく(?)
お休みが1月1日のみ!
営業時間は朝8時から18時まで。
とても勤勉です。
いろいろとテイスティングさせてもらい、
よくこちらで、いろんな新しい情報を手に入れています。
今回も、去年ワイン造りを始めたという
人たちの話を詳しく聞くことができました。
ブジコットの2杯目
さて、ここで、先ほどの白ワインと同じ造り手の
赤ワインをいただいてみましょう。
「オーセイ・デュレス」という村名のワインです。
ヴィンテージは2014年。
少し熟成が進んでいます。
熟成するとだんだんレンガ色に変化してくるんですが、
これはフチが少しオレンジ色に変わってきていますね。
香りも、イチゴや小さいベリー系のものだけでなく、
枯葉やキノコ、土っぽいニュアンスを感じませんか?
これが、熟成香です。
さきほどの白ワインと同様、
果実味よりもむしろミネラル感や酸味を感じませんか?
このエレガントさがこのドメーヌの個性で、
彼らの目指すところなんです。
おすすめのレストラン/マ・キュイジーヌ
赤ワインをいただきながら、レストラン情報をお聞きください。
私がブルゴーニュに行ったなら、
必ず寄るのが「マ・キュイジーヌ」です。
今回も行きました。
私の本、『ワインの授業 フランス編』(イースト・プレス)
にも載っているお店です。
ご夫婦で経営されていたんですが、
最近になって離婚されたのが残念です。
でも、味は変わりなく保たれていました。
奥さんのほうが新たに始められたワインバーにも
行ってみたいんですよね。
大人気とのことなんです。
元々は、彼女の料理に惚れ込んだ造り手たちが、
ワインを「マ・キュイジーヌ」に卸していたんです。
だから、別れたいまも、奥さんの店のリストは充実していて、
界隈で一番と言われています。
「マ・キュイジーヌ」に話を戻します。
この店のユニークなところは、
あまり有名でないドメーヌの、
オールド・ヴィンテージがあること。
そういう知らないワインを開けて
めちゃくちゃおいしいものにあたったときは、
嬉しいです。
お料理は、ブルゴーニュの名産がいろいろ楽しめます。
まず「エスカルゴ」。
これにはシャブリか、ブルゴーニュのもっと南の「マコン」
という白ワインを合わせるのもいいですね。
「ジャンボン・ペルシエ」。
ソムリエ試験には頻出の料理です。
ハムとパセリがゼリー寄せになっています。
みんな注文する、この店のスペシャリテです。
旬ということで、キノコのスープもおいしかった。
私の大好物の「ウフ・アン・ムーレット」ももちろん食べました。
人参、ベーコン、干しぶどうなんかを
ブルゴーニュの赤ワインで煮込んで、卵を落とし、
ポーチ・ド・エッグみたいにしていただきます。
ここに来たら、ピジョン(鳩)もぜひ!
クミンがかなり効いていて、
熟成のすすんだピノ・ノワールのワインとの相性が抜群です。
シテ・デュ・ヴァン
では次に、ボルドー地方へと話をうつしていきましょう。
今回の出張では、「シテ・デュ・ヴァン」という、
世界最大のワイン博物館に行きました。
まだ2年ほどの新しい施設です。
ワインに含まれる様々な香りを嗅げるブースがあったり、
ヴァーチャル・ソムリエからワインをおすすめされたり、
ワインの歴史を学べるブースがあったり、
まるで美術館のようなワインショップがあったり……
ワイン好きなら1日中楽しめます。
わたしは、今回、ここで開かれた、
日本独自のブドウ種「甲州」についてのシンポジウムに
登壇したんです。
甲州の権威で、酒類綜合研究所理事長の後藤奈美さんとも
ご一緒させていただきました。
彼女は、遺伝子解析から、このブドウが、
どのようなルーツをもっていて、
どのように日本に伝わったか、
解き明かした人なんですよ。
お客さんはほぼフランス人で、
甲州のワインを飲んだことがある方は
あまりいませんでした。
まず、棚にぶら下げるように栽培する
「棚仕立て」に驚いていましたね。
フランスでは、垣根仕立てですから。
1房1房にカバーをかけているのは、
日本人はワーカホリックだ、なんて言われてしまいました。
元は雨避けだったんですが、
最近ではこうしないと、日差しが強すぎて、
日焼けしてしまうそうです。
甲州はワインになるだけでなく、
食用もされています。
たとえば山梨の方は、10月ごろに収穫したら
新聞紙に包んで、蔵で保存するんだそうです。
大変長持ちするので、
紅白歌合戦を見ながらとか、
年末年始に食べたりするらしいですよ。
すごい長持ちですよね。
ワインの飲み方も地元は独特で、
一升瓶から湯のみで飲むそうです。
さて今回、シテ・デュ・ヴァンでは、
観客のみなさんと、
甲州ワインのテイスティングもしました。
秩父ワイナリーの「シュールリー」、
シャトーメルシャンの「きいろ香」、
蒼龍葡萄酒の「リザーブ甲州」、
勝沼醸造の「アルガブランカ ピッパ」
の4種です。
どれも評判で、どこで買えるかすごく聞かれました。
でも、残念ながら甲州ワインはフランスにはまだ少量しか
輸出されていないんですよね。
わたしも、日本ワインをもっと応援したくなりました。
といったところで、お時間となったようです。
今日は、お集まりありがとうございます。
また次回、11月にお会いしましょう。
ありがとうございました。