9月下旬。
前回と同じように夕暮れ時に、
杉山明日香先生によるトークショウ
「サロン・ド・アスカ」が開かれました。
場所も同じ東京・西麻布にあるワインバー/レストラン・ゴブリンです。
「アスカ・レコール・デュ・ヴァン」を主宰し、
ソムリエ講座をするだけでなく、
ワイン輸入業も手がけ、ゴブリンとともに、
パリでレストラン「ENYAA Saké & Champagne」もプロデュースしている
明日香先生は、2週間ごとにフランスと日本を行き来しています。
ヨーロッパ各国の銘醸地を訪れることも多いそうです。
この会は、明日香先生が本場で得た貴重なワインやその生産者の最新の情報を聞きながら、
ゆかりのワインを楽しむ1時間のささやかな集まりです。
今回も視察してきたばかりのフランスのワイン産地についてのお話でした。
場所はシャンパーニュ地方と、そしてなんと、そこから遠く離れたコニャック地方!
以下に、会の模様を少しだけお伝えいたします。
なお、10、11月にも別の産地についてお話しする予定です。
ご興味を持たれた方は、ぜひご参加ください(開催概要はこちら)。
シャンパーニュ、グレートヴィンテージの予感
みなさん、こんにちは杉山明日香です。
今日は、お越しくださいましてありがとうございます。
今回のサロン・ド・アスカでは、
先ごろ行ってきたシャンパーニュ地方と
コニャック地方についてお話ししたいと思います。
さて、まずは、シャンパーニュ地方。
場所からですが、
実はパリから一番近いワイン産地で、TGVで約45分ほど、
南の方に行けばブルゴーニュ地方もすぐそばですね。
ランスという町が中心で、
わたしは、いつもそこから車で、
さまざまな生産者のところを周っていきます。
わたしは、パリに「ENYAA エンヤー」というレストランを出しているのですが、
お店のシャンパーニュは、
生産者から直接仕入れているので、
普段から訪れることも多く、いろいろな話を伺っています。
ちなみに、ENYAAは
日本酒とシャンパーニュで、
京和食を楽しんでいただくのがテーマなんですよ。
さて、今回シャンパーニュへ行ってみると、
9月だというのに、すでに収穫をしていました!
早いところで8月末から始まったそうです。
これはフランス全土で同様のようで、
2018年がいかに天候が良く、暑い夏だったかがわかりますね。
収穫量は、去年の30%増。
なかには、倍以上取れたという生産者もいました。
ブドウの質もなかなか良さそうで、病害も少なかったそうです。
今年は、質・量ともにシャンパーニュ地方には良い年だったのでしょう。
グレートヴィンテージになるのではとも言われています。
下の写真は収穫風景です。
美しいですねえ。
音は聞こえないですが、
実はレゲエが大きな音でかかっているんですよ。
収穫用のトラクターの上に大きなラジカセを置いて、
好みの音楽を聴ききながら1日中収穫をしているんです。
とっても暑くて、
上半身裸で作業している方なんかもいます。
収穫する人は、いろいろなところから集まってきます。
中には遠くスペインから親戚が来ていたり。
ちなみに、お給料は、収穫したブドウ一箱でいくらという出来高制。
日本なら時給かもしれませんけど、
それじゃあ真面目に働いてもらえないそうですよ(笑)。
1杯目「トロワ アー(ド・スーザ)」
さて、いよいよ今日の1杯目です。
今回視察してきた「ド・スーザ」という生産者の
シャンパーニュを飲んでいただきましょう。
それでは、かんぱ〜い。
口に含むとまず、すっと酸が入ってきた後に、
赤リンゴの蜜の部分のような甘みが広がってきませんか?
柑橘系の香り、石灰の香りも特徴的です。
ベリー系の、赤い果実の香りも少し感じられますね。
ド・スーザは、シャンパーニュ地方のアヴィーズ村にあります。
ジャック・セロス、アグラパールなど、
有名な生産者も畑を持っている優良な村で、ほぼシャルドネだけを育てている村ですね。
これは、「3つのA(Trois A)」と書いて「トロワ アー」というシャンパーニュです。
シャンパーニュ地方には
最上ランクの「グラン・クリュ」の村が17あります。
その中に、Aから始まるグラン・クリュが3つだけあって、
アイ、アンボネイ、アヴィーズです。
ド・スーザは、その3つのブドウを使い、出来上がったのが「トロワ アー」というわけです。
ブレンドの割合は、
アヴィーズのシャルドネ50 %と、
アイとアンボネイのピノ・ノワールが25%ずつです。
普通、同じ割合ならピノ・ノワールの味わいが勝つはずなのに、
シャルドネのニュアンスがしっかり出るように造られています。
そこがこの生産者の真骨頂なのでしょう。
シャルドネの美しい酸やミネラル感を前面に感じさせつつ、
後からピノ・ノワールのふくよかな果実味が感じられます。
ド・スーザの醸造と熟成
下の写真は、この「トロワ アー」が醸造されている樽です。
ちょっと変わった形をしていますよね。
かなり古い時代にワインを造ったり運搬するのに使われていた、
「アンフォラ」という陶器の形をしているんです。
この型の樽はド・スーザ以外では、ジャクソンくらいしか、まだみたことがないです。古いものですが、試みとしては非常に新しいと言えると思います。
古いものですが、試みとしては非常に新しいと言えると思います。
また、ワインがずらりと並べられた写真が下にあると思いますが、
これはド・スーザの地下のカーヴです。
年間を通して約10度に保たれているそうです。
ここに何万本もの熟成中のワインが眠っているんです。
実はこのカーヴ、ド・スーザの敷地を越えて、
隣の薬局の地下にまで伸びています。
上の土地だけ売ってしまったということですね。
ラルマンディエ・ベルニエ/ペルネ・エ・ペルネ
ドスーザの次には、
ラルマンディエ・ベルニエという生産者を訪ねました。
シャンパーニュ地方でランス、エペルネに次いで大きな都市とも言われている、
ヴェルテュにあります。
現当主はピエール・ラルマンディエさんで、
20代後半の息子さんが後継者として修行中でした。
彼はパリでPRの仕事をしていたんですが、
自分の家のシャンパーニュが、
当時住んでいたパリで知れ渡っていたことで、
そのおいしいさを再認識したそうです。
そこで会社を辞めて、この4月から手伝いをはじめ、
一番下っ端からがんばっているようですよ。
わたしが輸入しているペルネ・エ・ペルネもヴェルテュにあって、
今回も行きましたよ。
下の写真は、収穫中の現当主・クルトとのツーショットです。
ご覧の通りのイケメンで、
「ミスター・ヴェルテュ」にも選ばれたほどの村のアイドルです。
一緒に車に乗っていると、
近所のおばちゃんが「クックー」って声をかけてきたり、人気者なんです。
ペルネ・エ・ペルネについて詳しくは、
オンラインマガジン「日経リュクス」の
わたしの連載にも次回書きますので、
ぜひ、読んでみてください。
コニャック地方のブランデー
今回は、コニャック地方にも行ったので、
そのお話もしましょう。
シャンパーニュ地方からはだいぶ離れています。
南にあるので温暖な地域です。
パリから南西に500キロほどです。
ボルドー地方のすぐ北で、大西洋に面しています。
なので海洋性気候で夏は涼しく、冬でも比較的温暖な地域です。
見渡す限り盆地で、
家々の間にブドウ畑が点在しているイメージです。
「コニャック」というお酒を聞いたことがあると思います。
この地方で造られる、白ワインを蒸留したブランデーのことです。
主要品種はユニ・ブラン。
下の写真は、皮が少し日焼けしちゃってますね。
でも、コニャックの場合この程度なら、そこまで味には影響が出ないようです。
マルテルへのヴィジット
マルテルというコニャックの大メーカーを訪ねました。
朝10時から、コニャックを10種類試飲したんですが、
今までで一番きついデギュスタシオン(唎き酒)でした(笑)。
ボルドー地方を訪れたときにも朝から赤ワインばかりを試飲して、
しんどかったですが、その比ではなかったです。
胃が強いアルコールで刺激されて、
びっくりするぐらいお腹が空いてしまいました(笑)。
ボトルが非常に可愛いですよね。
十数人のチームを組んで、
少なくとも2、30種類、
ときには300種類以上のものコニャックを
30年もの、100年ものなどと年代を分けて
アッサンブラージュして(混ぜて)造るそうです。
飲んでみると、まず熟成香が素晴らしい。
40度近いので香りからもアルコールを感じるはずなんですが、
まろやかなんです。
しっかりとブドウの香りも感じられるんですよね。
2杯目「ピノー・デ・シャラント(レロー)」
さあ、今日の2杯目です。
コニャックを、とも思いましたが、
今回はすこし変化球にしました。
「ピノー・デ・シャラント」という
コニャック地方産の、
わたしが一番愛している酒精強化ワイン(アルコール度数を高めたワイン)です。
ブドウ果汁にコニャックを加え、
今回のものは樽で15年寝かせています。
ちなみにこれは「ヴァン・ド・リキュール」という、
酒精強化ワインの種類です。
他に、似たものでアルコール醗酵過程でブランデーを加えて醗酵を止めた、
「ヴァン・ドゥー・ナチュレル」
という種類もあります。
フランスでは夏にピノー・デ・シャラントのCMが流れるんですよ。
氷がグラスの中でカランカランと鳴ったりして、
そのあとフランス語で、宣伝文句が入るんです。
ロックで食前酒や食後酒として楽しまれたり、
キンキンに冷やして、ストレートで飲んだり、
寝酒にすれば幸せな気持ちで眠れます。
食前酒なら、ゴブリンの後藤店長が作ってくれる
ソーダ割りもとってもおいしい。
口を開けてもかなり長持ちするのでご自宅の冷蔵庫に1本入れておくのもオススメですよ。
甘すぎないので、
デザートワインが苦手、という人にもいいですよね。
コニャックの種類がさすが豊富な地元
コニャック市の中心には
「ビノテーク(ワインショップ)」ならぬ
コニャック専門店「コニャテーク」がありました。
たくさんの方からオススメされたんですが、
噂通りの品揃えでした!
コニャック専門のバーもありましたよ。
コニャックを使ったカクテルがたくさんあるんです。
レストランには、
ワインリストとは別にコニャックリストがあって、
ソムリエとは別にコニャックソムリエが一人はいるんです。
ソムリエにコニャックのお話を聞いても、
「専門のコニャックソムリエに聞いてくれ」って言われたり、
しっかりと棲み分けがなされていました。
フランスの牡蠣を救った日本
今回はあまり食の話ができませんでしたが、最後にひとつ。
ボルドーとコニャックの間ぐらいの場所は
ジラルドというブランド牡蠣の一大産地なんです。
でも、この牡蠣、一度全滅してるんです。
今流通しているのは、
主に日本から持って行ったものの養殖なんだそうですよ。
コニャック地方のみなさんはもちろん、
フランス人はみんな生牡蠣が大好きです。
だから、わたしが日本人だとわかると、
感謝されることがたまにあります。
みんな知っているんですね。
牡蠣の味はあっさりしていて、ミネラルが強くておいしいです。
不思議なのが、どこのお店で食べてもなぜか必ずソーセージが
口直し的な感じで付いてくること。
理由を聞いても
「昔からそうだから」という返事ばかりでよくわかりません。
わたしもないと、逆に違和感があります(笑)。
コニャック地方で牡蠣にどんなワインを合わせるかというと……
コニャックを合わせてしまう人もいるんですが、
近くであってもボルドー地方の
例えばソーヴィニョン・ブランを合わせるということはないですね。
シャンパーニュやシャブリを合わせるのが一般的なようです。
ブルゴーニュのワインはあまり置いていないのですが、
シャブリだけはオンリストされていました。
さあ、残念ながら、そろそろお時間のようです。
実は今日は、みなさんにほんのささやかなお土産があるんです。
お帰りになるときに、出口のところのテーブルに、
チョコレートを置いておきました。
なんとレーズンをピノー・デ・シャラントに漬けたものを、
チョコレートでコーティングしてあるんです。
つまんで帰ってくださいね。
今日は、お越しいただき、ありがとうございました。
来月のサロン・ド・アスカは10/27の予定です!
またお会いしましょう。